現役トップアスリート大田和宏選手
が教える
「走高跳」で高く跳ぶ練習方法とコツ

日本体育施設のアスリートパートナーに各自の競技のスキルアップを聞く「WEB陸上競技教室」。今回は走高跳(走り高跳び)の大田和宏選手に、走高跳の競技において、基礎的なものから実践に役立つトレーニング方法を紹介してもらいます。
大田和宏選手のレッスンが、走高跳競技を目指す選手のみなさんの一助になれば幸いです。
 2021-ohta-1

Ⓒ高橋学

大田 和宏 Kazuhiro Ota
石川県河北郡津幡町出身。走高跳で自己最高記録2m22cmを誇り、2015年「北信越学生陸上競技対校選手権大会」で優勝を納め、2017年の日本選手権2位、2019年の国体2位などの成績を納める。

lesson.01 基礎トレーニング編 走るメニューやウエイトトレーニングなどをやるべき理由

まずは基礎のトレーニングについて。走高跳のための身体づくりで特に重要なトレーニング方法を教えてもらいます。

Q1.走るスピードは速い方がよいですか?

A1.
速い方が望ましいとされています。
走高跳では助走で得た力を、踏切によって上昇力へ“変換”します。そして踏切直後の上昇速度が大きい事が好記録へ大きく貢献するのです。
したがって、変換(踏切)前の速度が大きい事は変換後に上昇する速度を得るために重要であると言えます。
ただし、短距離選手のように全力疾走すれば良いというものでもありません。速度が大きすぎると踏切で対応できなくなり、「潰れる」と言いますが、踏切のタイミングが合わないということが起こります。
重要なのは“自分が対応できうる最大の速度”であることです。

@Takashi OKUI[

Column 01

走高跳は英語でなんて言う?

High Jump(ハイ ジャンプ)
調べてみると面白いですね!


lesson.02 実践トレーニング編 

次に走高跳に直結する実践的なトレーニング方法について聞きました。

Q2.助走はどんな風に走るのが良いでしょう?跳び方によって違いますか?
そのための練習方法はありますか?

A2.
実は、助走はどんな風に走っても良いのです。一番大事なのは踏切のタイミングです。
走り方はアスリートごとにさまざまで個性的です。基本的に、助走は踏切で得られる跳躍力を増大させるために行い、速度があるほど上昇力に変えられます。とはいえ、踏切のタイミングを逸しては、上昇力に変えることは難しくなります。
理想から言えば、助走で獲得した最大限の速度を、踏切によって上向きの力に変えるのが良いのですが、踏切のタイミングを取るのが難しくなるので、速く走ることがかえって逆効果となることもあります。
自分がどれくらいの速度で走れば、うまく踏切のタイミングを合わせられるかを知ることが大事です。
そのためにも反復練習で自分なりのタイミングを知ることを心がけてください。走り込みだけでなく、バウンディングによるジャンプトレーニングも有効です。足を交互にバウンディング、一歩一歩の踏み込みに対しても、常にタイミングを意識します。
このようにリズム良く、自分なりのタイミングを掴む練習を行なってみてください。

Ⓒ高橋学

Ⓒ高橋学

次に走高跳の踏切について聞きました。

Q3.目指している踏切方法・スタイルがあれば教えてください

A3.
接地時間が短く、かつ力強い踏切を目指しています。
私の持ち味は、高い助走速度を活かしてスピーディーな上昇速度を獲得するというものです。
実は接地時間の短さと、力強さというのは相反しています。
筋力発揮という点に限り、簡単に言ってしまえば、筋肉の収縮速度が速いほど小さな力しか発揮できず、遅いほど大きな力が発揮できます。これを“力‐速度関係”と言います。
しかし走高跳では、踏切によって生じる衝撃で筋肉が反射的に反応することで、意識的に動かすよりも速く、かつ大きな力を発揮することができます。
踏切で地面に足をつける前から筋肉の収縮が始まっていて、このタイミングで力を加え始めることになります。踏み込むというより、あまり体を曲げずに、’全身を弾力性のある物体’に変化させて、それを地面に当てにいくイメージです。踏切の力の衝撃は交通事故にも匹敵すると例える人もいます。そこまでの力をぶつけないと、人が2メートルの高さに跳び上がることはできないのかもしれません。
そうした動作をタイミングよく行うために、助走速度であったり、関節角度であったり、踏切技術等が関わってきます。

Ⓒ高橋学

Ⓒ高橋学

Q4.そのための練習方法はありますか?

A4.
ジャンプトレーニングが有効です。
まさにジャンプトレーニングというものは、短い接地時間で大きな力を発揮するためのトレーニングとしてうってつけです。
ハードルやミニハードル用いたもの、高さのある箱に飛び乗ったり、飛び降りたりするボックス(ジャンプ)トレーニング等、様々な練習法が例に挙げられます。
近年のトレーニング現場では広く、“プライオメトリクス(トレーニング)”、“デプスジャンプ”等という呼ばれ方をしています。

Q5.空中姿勢で意識している点はありますか?

A5.
力の流れに逆らわないことを意識しています。
選手はある程度空中で身体を操作してバーを避けようと動かなければいけません。
しかし、先程も少し触れましたが、基本的に背面跳は“起こし回転”という現象を利用して成立しています。
その現象を阻害しない範囲で身体を操作することが大切です。
例として、空中に跳び出してから空中動作まで間を取りすぎると回転が止まってしまったり、身体の回転軸から大きく外れた箇所で身体を反らそうとすると下半身をバーにあててしまったり等が挙げられます。

Ⓒ高橋学

Q6.助走からの一連の動きで意識していることはありますか?

A6.
意識する部分はその時々によって変わります。
「全習法」と「分習法」という言葉があります。
簡単に説明すると、「全習法」とは試合と同じように助走のスタートからマットに着地するまで全ての動きを通して練習を行うことです。
一方の「分習法」はその一部分を切り取って部分的に練習を行うことです。例えば、今日は空中動作の練習に集中したいから助走を短くして本数を沢山跳ぼう!というのは分習法に当たります。
また全習的に一連の動作を通して行う場合でも、その中で助走を意識しよう、踏切を意識しよう、空中動作を意識しよう。とする場合また違った分習法として扱われることがあります。

Ⓒ高橋学

Ⓒ高橋学

Q7.助走で足裏の感覚は何か意識されていますか?

A7.
グリップ感を重要視しています。
走高跳の特徴として助走後半のカーブ局面が挙げられます。
この局面は、助走速度を落とさず、かつ無理なく重心位置を下げるために身体の重心点より外に足を接地します。これを現場では“内傾動作”と言います。この局面を走り切ることで強い踏切が発生します。そのためには、いつも以上に地面へ大きな力を加える必要があります。
スパイクのピンが地面を噛む感触が、音や接地感から身体に伝わるようなイメージです。

Ⓒ高橋学

Column 02

代表的な3つの跳び方とは?

1. 背面跳び
世界で活躍する選手のほとんどが背面跳びを使っており、現在は最も主流となっている跳び方です。 踏切で大きなブレーキをかける事によって身体が回転しながら上昇する“起こし回転”という現象を利用して、背面跳という跳躍法は成立しています。よってマットに着地する頃には背中や頭が下に向いています。クリアランス後(落下時)には、首の怪我に気をつけましょう。試合前には首をはじめ全身のストレッチを行う、着地時に首を守る技術を習得するといった対策を取りましょう。

2. はさみ跳び
はさみ跳びは、バーを足でまたぐようにして跳ぶ方法です。
小学生や初心者向けの跳躍法としてはよく用いられます。
3. ベリーロールなど
腹側からバーに飛び込み、身体を回転させるようにしてバーを越える跳躍法です。
背面跳びが主流になる以前は、走り高跳びの跳躍法の主流として知られていました。