現役トップアスリート
村上輝選手が教える
「砲丸投」で遠くに
飛ばす練習方法とコツ

日本体育施設のアスリートパートナーに各自の競技のスキルアップを聞く「WEB陸上競技教室」。今回は砲丸投(砲丸投げ)の村上輝選手に、砲丸投競技でよく聞かれる疑問に答えてもらいました。基礎的なものから実践に役立つトレーニング方法など、村上選手のアドバイスが、砲丸投競技を目指す選手のみなさんの一助になれば幸いです。

Ⓒ高橋学

村上 輝 Hikaru Murakami
三重県伊勢市出身。男子・砲丸投で自己最高記録18m29cmを誇り、2019年「実業団・学生対抗陸上競技大会」優勝、2020年日本陸上競技選手権大会2位 2021年「水戸招待陸上」優勝、2022年「日本選手権」優勝などの成績を納める

Lesson.01基礎トレーニング編 ウエイトトレーニングや走りこみなどをやるべき理由

まずは基礎のトレーニングについて。砲丸投のための身体づくりで特に重要なトレーニング方法を教えてもらいます。

Q.1おすすめの筋トレ方法は?

A.1
まずはベンチプレス。このトレーニングは胸や肩、腕の筋肉、腹筋などを連動させて動かすことでバーベルを持ち上げます。さらに背骨に沿った筋肉で動作の補助をすることになり、上半身の筋肉全般が鍛えられるのです。多くの筋肉を使用するので、1度でさまざまな筋肉を鍛えることになり、筋肉量のアップにつながります。
クリーンもベンチプレス同様、さまざまな筋肉を鍛えてくれます。バーベルを床から引き上げて胸、頭上へとかかげ、そのまましゃがみこむ動作からわかるように、下半身の筋力の強化にもつながります。筋肉を爆発的に稼働させることができないと、クリーンを行うことはできません。このことから、筋肉の瞬発力の向上に特に役立つことが期待できます。
スクワット、特にバーベルやダンベルを身体の前に担いで行うフロントスクワットでは、大腿四頭筋を中心に腿や臀部の筋力を強化できます。
チューブトレーニングを活用するのもおすすめです。特に砲丸投においては腰の入れ方や右足の引き込みなど、踏み込み時の動作を鍛えることができます。トレーニングチューブを用いることで、その他の筋肉を鍛えることもできます。比較的場所を選ばず効率的にトレーニングでき、チューブの質や本数で負荷を変えることもできるのでおすすめです。

基礎トレーニング動画

ベンチプレス

ハイクリーン

スクワット

チューブトレーニング

Q.2筋トレ以外に必要な基礎トレーニングって何かありますか?

A.2
ウエイトトレーニング以外では、踏み込みや瞬発力を養うために走り込みでの30mダッシュ等も有効です。走り込みの効果についてはQ3で紹介します。
また段跳びなど立ち跳びも有効です。スプリント能力、つまり瞬発力を鍛えられます。ただし、距離を飛ぶことが目的ではなく、足で強く地面を押して勢いを全身に伝えられるようになることが目的なので、その部分に注目してトレーニングを行ってください。

Ⓒ高橋学

Q.3走りこみのスピードなどは投てき力に影響するの?

A.3
影響します。砲丸投は投てきの筋力、中でも「肩が強い」のみが重要だと思われがちです。ただそれと同じくらい下半身の筋力も重要です。砲丸投のトップ選手の中には足が速い選手も多いのです。走り込みは足の筋力の強化につながりますし、特に地面を蹴る力を高めれば、砲丸投競技におけるあらゆる動作のスピードとパワーが高まります。
30mダッシュをお勧めするのは、瞬発力を鍛えるのにちょうど良いからです。スタートから身体が起きるのが10m。そこから加速してスピードが乗るのがちょうど30m。これを繰り返せば、短い距離であれば、短距離にも負けない瞬発力を身につけられます。ちょうど瞬発力を上げる筋肉のトレーニングにぴったりです。
それに距離が30mなら、繰り返したくさんの回数を行うことができます。
場所の制約も理由のひとつにあげられます。特に学生時代は競技場やグラウンドを広く占有するのはなかなか難しいので。そういった意味からも非常に現実的なトレーニングだと思います。

Lesson.02実践トレーニング編 グライド投法のトレーニングを中心に

次に砲丸投に直結する実践的なトレーニング方法について聞きました。主流となっているグライド投法のトレーニングを中心にご紹介します。

Q.4グライド投法とは?

A.4
投げる方向に対して、背を向けた状態から準備動作、そして投てきに入ります。助走と身体のひねりの力を加えて肩で押し出すように砲丸を送り出します。スピードを活かすことができるという点が特徴の投てき方法です。

グライド投法動画


Q.5投げ方(フォーム)の最適なスタイルを教えてください

A.5
準備動作から投てきへの姿勢のことをパワーポジションといい、身体にため込んだ力が最大になる状態を指します。そのパワーポジションの際、腰をしっかり入れ、斜め2m先に目線を残すことにより爆発的な力を得られます。

姿勢としては、上半身は、身体が開かないように目線を残し、下半身は足の力を使う為、上体を下げることを心がけましょう。
リリースのタイミングはよく「押し出す感覚で」と言われますが、投げるというより、掴みに行くようなイメージで弾く、というのが一番近い感覚だと思います。踏み込みは左足で足止め材をブロックし、右足を跳ね上げるように砲丸を飛ばし、その右足は踏み込み材ギリギリに着地させます。

Q.6最適な投げ方を身につける練習方法はありますか?

A.6
先ほどの最適なフォームを意識しながらの投げ込み練習が一番ですが、イメージトレーニングもかかせません。投げ込みをするにも、正しいフォームがイメージできていないと、間違った癖が身につくなどの弊害もあります。まずは最適なフォームを頭に描いて、ポイントを抑えながら、イメージをしっかりと定着させることが必要です。
そこで課題に感じたポイントを押さえ、投げ込みの際に実践してゆきます。また、身体にフォームを覚えさせるために、チューブトレーニングで負荷をかけながら、腰入れや、右足の引き込みなどを確実に身につけていくことも有効です。
Column

砲丸投の球の重さは、どのくらいあるの?

男子:7.260kg(16ポンド)
女子:4kg
高校男子:6kg
高校女子:4kg
中学男子:5kg
中学女子:2.721kg(6ポンド)
世界ジュニア規格男子:6kg
世界ユース規格男子:5kg
一般男子の7.26kg(16ポンド)は、ボーリング場に置いてある一番重いボールの重さと同じです。

Q.7回転投法も最近よく見ますが、グライド投法と違いや良さはありますか?

A.7
回転投法は身体を回転し、遠心力による力で砲丸を投げる投てき方法です。準備動作から投てきまで、回転の動作を行うことで、結果的にグライド投法よりもサークル内で砲丸に長時間力を加えることになり、加速力が増します。そのため正確に投てきできれば、比較的飛距離を稼ぐことができると考えられています。
ただし、実践的には砲丸にかける力はさほど変わらないのではないかという考えや、正確な投てきができずタイミングがズレてしまいがちなど、フォームの不安定さを覚える選手も多く、どちらが優位かというのは言えなさそうです。

Ⓒ高橋学

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