サッカー場の芝生管理の基礎知識
-日本体育施設の芝生管理技術者が教えます!-

芝生管理の仕事は、スタジアムの天然芝や天然芝による校庭緑化に取り組む仕事です。競技施設の天然芝を管理する専門職として欧米では『グラウンズマン(またはグラウンドキーパー/グリーンキーパー)』の呼称もあり、特に天然芝を用いるプロサッカーやゴルフでは競技を支える重要な仕事とされています。
日本体育施設の重要な仕事の一つでもあるサッカー場の芝生管理。当社が芝生管理を担当する『フクダ電子アリーナ』で活躍する石井幹生が、サッカー場を例に天然芝と人工芝の違いや、天然芝の管理などの基礎知識をご紹介します。

当社はフクダ電子アリーナのある千葉市蘇我スポーツ公園の指定管理者である『SSP UNITED』(※)の構成員として芝生管理を行っています。
※SSP UNITEDとは、千葉市蘇我スポーツ公園を管理運営する(株)千葉マリンスタジアム・ジェフユナイテッド(株)・日本メックス(株)・日本体育施設(株)による共同事業体です。

INDEX

サッカー場の天然芝と人工芝について

Q.1サッカー場の天然芝と人工芝は、どう違うのですか?

A.1
一般的には、①天候の影響②ボールの転がり方や弾み方③選手(利用者)への負担などが挙げられます。①はメンテナンス性や常緑性を考えると人工芝が有利、②は平坦性が整う人工芝が有利な反面、弾みが大きくなるため、一長一短と言えるようです。③については下地が砂でクッション性の良い天然芝が有利とされています。
グラウンズマンの視点で考えると、選手の安全性においては、人工芝の品質向上は目を見張るものがありますが、天然芝は、クッション性など天然の芝生だけが兼ね備えた魅力があります。
選手への負担においては、天然芝はある意味で、強い強度が発現した際に壊れてくれますが、人工芝は壊れないものがある。負荷が選手へ全てかかり、怪我の発生リスクにつながります。
ヨーロッパで主流となっている天然芝と人工芝のミックス(ハイブリッド芝)も強度という点では優れています。
天然芝はハイメンテナンスをおこなうことで、高い品質維持に繋げていますが、人工芝はローメンテナンスでOK。
平坦性、ボールの転がりは人工芝も優れていますが、技術がある選手であれば、多少の凹凸感があっても、優れたプレイをおこないます。
最近の選手は人工芝に慣れているため、天然芝でのプレイに違和感を覚えるケースもあるようです。
天然芝では、ボールを強く蹴らないとパススピードが上がらないなど、難しさは出てくるかと思いますので、フィジカルの強化はどうしても必要になってくると思います。
選手が何を求めるかで異なると感じており、ニーズをしっかりと把握した提案を心がけています。
Column 02

『ロングパイル人工芝』はスポーツ専用の芝生

一般の家庭やゴルフ場のティーグラウンドなどで目にする人工芝は『ショートパイル人工芝』と呼ばれます。ショートパイル人工芝は、サッカーをするような施設では使用されません。
そこで、天然芝の感触に近づけ、スポーツ用の人工芝として生み出されたのが生み出されたのが『ロングパイル人工芝』です。ロングパイル人工芝はスポーツ専用の人工芝といえます。公益財団法人日本サッカー協会(JFA)の設けるロングパイル人工芝ピッチ公認制度もあり、サッカーのプロユースの練習場でもロングパイル人工芝が使用されていますが、特に、Jリーグスタジアムにおいては、天然芝が愛されています。

Q.2プロサッカーの競技場は天然芝じゃないとダメですか?

A.2
Jリーグスタジアム基準の中では、『ピッチの芝生は、天然芝又はJリーグが認めたハイブリッド芝*であること』と規定されています。

*Jリーグが認めたハイブリッド芝:ピッチ全体が天然芝と5%以下の人工芝とを組み合わせたもので、導入前に、ピッチ外でハイブリッド芝の実証実験を実施することと、実証実験の結果をもとに、導入に関して理事会の承認を得たものとなります。

これは、選手への負担を考慮し、天然芝を優先しているのではないでしょうか。

Q.3サッカー場に適した芝生の種類はありますか?

A.3
サッカー場の芝生、なかでも天然芝には使用頻度にある程度耐えられる強度と密度などが求められます。

暖地型芝草」なら『ティフトン419』や『ティフグラウンド』などがあるバミューダグラス。サッカーW杯カタール大会でも、多くのスタジアムで採用されていた『シーショアパスパラム』も注目です。

ティフトンのターフ

寒地型芝草」なら『ペレニアルライグラス』や『ケンタッキーブルーグラス』が挙げられますが、スタジアムがある地域、気候変動を考慮すると一概には言えなくなりつつあります。日本古来の野芝や高麗芝といった芝草もアメリカで品種改良が進んでおり、今後の発展に期待が持てるかもしれません。

ケンタッキーブルーグラスのターフ

また、ウィンターオーバーシーディングを行う場合は、どちらを主体にするかによって組み合わせも変わってきます。

Q.4サッカー場に適した天然芝生の整備方法はどんな方法がありますか?

A.4
機械撒き芝(まき芝)工法」「播種工法」「張り芝工法」などがあります。
永続的な考え方で言ったら苗植えから育成する手法や、小判での張り芝工法に尽きると思います。
新設工事の時には、専門機械を使った機械撒き芝工法が用いられます。

機械まき芝工法

ロール芝を用いた張り芝工法

Q.5サッカー場に適した芝生の張り方は、ありますか?

A.5
張り芝工法は、あらかじめ圃場(ほじょう)で生育した芝生を切り出して、サッカー場に搬入し、並べて置いていく手法です。
切り出し方は、平板状に切られたもの「ソッド芝」、ソッドより長くマット状に切られた「ロール芝」があります。さらに、ロール芝より面幅の広い「ビッグロール芝」もあります。
ビッグロールの施工は、工期が短く、養生期間もほぼ必要としない点では優れています。ただし、違う土壌の持ち込みや根の下ろし方がビッグロールは大きく異なるため、フィールドの土壌とのマッチング具合を考慮することが重要です。
また、ハイブリッド芝においてビッグロール工法で実施する際は、人工芝の基布によって環境が分断されることを避け、同じ舗装構成で整備することが重要となります。
Column 02

予備の芝生を育てる圃場(ほ場)

私たちは、予備の芝生を育てる場所を「圃場(ほじょう)」と呼んでいます。圃場には、芝生管理者がピッチの予備の芝生をピッチと同じ環境で育てる圃場と、天然芝の生産者が生産・管理する圃場があり、後者は「ナーセリー(nursery)」とも呼ばれています。

Q.6ハイブリッド芝ってどんな芝生ですか?

A.6
ハイブリッド芝』は『強化型天然芝』とも呼ばれ、天然芝をベースに一定割合の人工芝や人工繊維を混ぜて敷設した芝のことを指します。もともと天然芝の強度を補うためにヨーロッパで生まれました。
打ち込みのスティッチ式と、ロール状のカーペット式、土壌にマイクロファイバーとコルクを混ぜ込み、根に絡ませて強度を発現する人工芝繊維補強式があります。
当社製品『エクストラグラス』は、カーペットタイプのハイブリッド芝で、強度に加えて、平坦性の維持できる点が魅力です。


Q.7ハイブリッド芝は、滑るって本当ですか?

A.7
確かに、ハイブリッド芝の使用されているスタジアムで行われた海外の試合でもひっかかったり、滑るような光景が見られました。ハイブリッド芝は強度がある反面、天然芝に比べると怪我人が発生しやすい状況が続いています。
ただ、ハイブリッド芝が滑りやすいとは一概には言えず、天然芝と人工芝のバランスをいかに保つかが鍵となると考えます。
専門的な話になりますが、Jリーグが認めるハイブリッド芝は人工芝の割合は5%未満とされていますが、人工芝はあくまでも補強材の役割を担います。人工芝が表面に露出すると滑りやすくなったり、補強されているためよく引っかります。
一方、ハイブリッド芝は、フィールドが凸凹になったり、剝がれたりすることを、補強材によって防ぐものですので、天然芝の面が肥大化し補強材が完全に埋まってしまうと、効果が失われます。
天然芝と人工芝(補強材)のバランスが重要です。
私がハイブリッド芝の施工や管理に携わった際は、天然芝と補強材をいかに共存させるかを考えて取り組んでいました。確かに、天然芝が成長すればクッション性が得られますが、安定的に良い状態を保つためには、ハイブリッド芝としての利点を活かし、天然芝の面を造り急がないことが重要でした。
国内でハイブリッド芝のピッチが整備されはじめてから5年以上が経ち、最近では表面の天然芝を剥ぎ、補強材の面を整正し、新たに種を撒くリノベーション工法がハイブリッド芝の定期更新として実施されています。

サッカー場をとりまく施設
(スタジアムからライン、ゴール)について

Q.8サッカーのスタジアムはなぜドームのように屋根がないのですか?

A.8
天然芝の育成に大きな影響が及ぶためです。
オープンエアで、天候の影響を受けておこなう競技という文化的な背景もフィールド部分は屋根で覆わない理由としてあるのではないでしょうか。
特にバミューダグラスは多くの日照量を必要とするため、日陰が多いスタジアムだと本来の生育形態が望みづらいです。
グローライト(補光機)の登場や、新たな肥培管理の手法により、違ったアプローチも出てきてはいますが、引き続きグラウンズマンの大きな課題です。
気温の推移にもよりますが、光合成量が少ない寒地型芝草ならグローライトでカバーする管理手法がヨーロッパの方では確立されつつあります。時代は多目的利用でアリーナの建設ラッシュが起きていますが、フットボールやラグビーといった競技が今後屋内でおこなわれるようになるかは未知数。可能性に満ちています。
Column 03

サッカー場にも屋根付きの施設が増えるかもしれない理由

天然芝を基本とするサッカー場において、芝生の育成の方法と日光の関係性から、陽光を遮るドームや開閉式を利用した屋根付きの競技場は稀だったと言えます。

とは言え、日本においても神戸の『ウイングスタジアム』が屋根付き、大分の『レゾナックドーム大分』は開閉式ドームが採用されています。『札幌ドーム』では移動式ピッチ「ホヴァリングサッカーステージ」が用いられています。屋外の「オープンアリーナ」と呼ばれるスペースに試合のない場合は天然芝のピッチをそのまま移動させ、日光を当て芝生を育成しています。
スポーツだけでなく多様な利用を行う観点では、欧州のマルチスタジアムで行われている芝生管理手法をはじめ、地温コントロール設備などの進化により、今後は屋根付きスタジアムが増えてくるかもしれません。
ぜひ、
当社の強みである『グラウンズマン』と『スポーツエンジニア』の連携によって、実現して参りたいと考えています。

Q.9サッカー、ラグビー、アメフト、コートは全て同じ大きさですか?

A.9
サイズはそれぞれ異なります。これらの大きさの違いは、グラウンズマンとして大切な知識です。
サッカーは、FIFA(国際サッカー連盟)、JFA(日本サッカー協会)によって105m×68mという規定はあるものの、最小、最大のサイズも示されています。
ラグビーは、国際試合が100m×70mとされていますが、Jリーグが行われているスタジアムではゴールラインの幅は68となっている場合が多いです。インゴールも22m~6mと様々です。
アメフトは、100ヤード(約91m)×53ヤード1フィート(約49m)です。
それぞれ専用の球技場もありますが、同じフィールド上でラインを引き直し、ゴールポストなどの必要な施設を設置して利用する場合もあります。

Q.10サッカーのラインを引くときのコツは?プロは、特別な道具を使って引きますか?

A.10
『フクダ電子アリーナ』でおこなっている方法は、人力でロープを張って、スプレーノズルのラインカーで描いてます。
現在はGPSを用いたり基準点をからほぼ全自動でラインを引けるロボットもあります。ロボットタイプはまだまだ改善すべき点が多いため、プロが使用するスタジアムでの運用はされていませんが、改良が進んでいますので、注目しています。

Q.11サッカーゴールは、どのタイミングで建てられているの?

A.11
『フクダ電子アリーナ』では、基本的には試合の当日に建てています。試合当日のイベント利用等で前日におこなうケースもあります。
サッカーゴールは転倒を防ぐために、砂袋等の重しや専用の杭で固定する必要もあります。大会主催者によって規定の方法があり、JFAにおいてもサッカーゴールの固定方法が、スタジアム標準『サッカースタジアムの建設・改修にあたってのガイドライン』で決められていて、規定に従って設置することになります。

ラグビーゴールは、W杯を契機に、大きなゴールが増えてきました。高さ17mとなると、ウインチ式のタイプやバギーを使って立ち上げるタイプがありますが、いずれも建て込み時の安全管理が重要です。

サッカー場の芝生管理

Q.12サッカー場の芝生は、どうして「しま模様」になっているのですか?

A.12
FIFAの規定にはありますが、Jリーグ等においては厳密な決まりはありません。
ただ、ゼブラ(しま模様)が用いられているのは、プレーヤーの空間認識や、アシスタントレフリーのジャッジの際などに目安になるからです。
ゼブラ状に芝生がなっているのは、芝生を刈りこむ時の方向を変えることで、芝生が倒れる向きが変わります。それを遠くから見ると模様に見えます。
とはいえ、ゼブラの模様のパターンには各社・各施設ごとに特徴があります。われわれ業界の立場でみると、ゼブラのパターンを見て、「どこのスタジアムか、管理会社か」が分かるケースもあるくらいです。

Q.13サッカー場の芝生はいつも綺麗な緑色ですが、冬は枯れないのでしょうか?

A.13
ヨーロッパなど寒地型芝草を用いている箇所は常緑です。日本は、四季がはっきりしており、気温の変化が激しいのが特徴です。暖地型芝草は平均気温が15度以下になると育成をやめて休眠しはじめ、12度以下で完全に休眠しますが、休眠すると枯れたように見えます。日本のように芝生が休眠する(枯れたように見える)地域では、ウィンターオーバーシーディングといった手法を使い常緑のピッチを形成しています。

Q.14私の学校は、もともと芝生だったサッカーグラウンドですが、すっかり土のグラウンドになってしまいでこぼこです。芝生の種を買ってきて、練習後にまいたら育つのでしょうか?

A.14
種を撒いて、適切な潅水作業(水やり)をおこなえば種は確実に発芽します。問題になるのはその後の初期養生管理です。過度なストレスを与えず、適切な養生管理を行えば、再生は可能です。実際に、芝生の育成には知識が必要で、利用者のみなさんが育成するにはハードルが高いと言えますが、グラウンズマンのアドバイスを受けながら、選手たちがピッチ管理を行っている大学もあります。

石井 幹生 Mikio Ishii
関東支店 技術管理チーム
(関東ST)チームリーダー
芝草管理技術者